元 楽天株式会社 取締役 常務執行役員
カーディナル合同会社 代表社員
安武 弘晃様
HIROAKI YASUTAKE
大企業はニッチ領域の研究を保護し、
国境を超えた安全保障を提供する。
井上
安武
資本の論理で言うと、多種多様な仕事をひとつの傘の下で許容できるので、それはいいですよね。たとえば自然言語研究者がいま大学に残っても、あまりいい研究はできないんです。やはりデータがないですし、グーグルに行ったほうが、世の中に与える影響は大きいじゃないですか。自然言語に興味があって、それしかしたくない・・・そうした要望に応えられるのは、大企業しかないと思います。
井上
安武
資本があって、特定、ニッチな領域に関わっていれば幸せだと言う人を、ちゃんと企業の収益と結びつけてインテグレーションする力があるのは、大企業だと思うんですよね。
ただ、人の数が増えればコミュニケーションのパスも増え、わずらわしいことが起きるのは、人間社会の常です。それはどんな大企業、いい会社に行っても変わらないストレスです。そこのトレードオフが大企業かなとは思います。
さらに最近では、国の力を超える大企業が出てきていて、それはまた違ったステージにあると思います。Googleのみならずサムソンもそれに近いかもしれません。同社は韓国のGDPの数十パーセントを占めていて、サムソンの社員であることがすでにステータスであり、大きな力を持っています。
またGoogleの社員であると、好きな国に住めたりするじゃないですか。どこかの国の国民でパスポートを持っているより、Googleの社員であるほうが身の安全が確保されると言えるでしょう。国家の安全保障よりもGoogleの安全保障の方が、普通の経済状態であればレベルが高い。アフリカの小国にいて国の金がないのでコンピュータの研究が出来ない、けれども優秀な人というのはGoogleに移った方がいいと思います。大企業はともすれば小さな国家よりも力を持つこともあり、そのおかげで幸せな生活を送れる事例も見受けられるため、良い側面もあると思います。
井上
安武
それはやはり英語化がユニークですよね。
井上
安武
ほんとうによかったと思いますね。
井上
安武
マネジメントの観点から言うと、当時の採用競合はグリーとDeNAだったんですね。それが2010年に英語化した瞬間にレッドオーシャンから離れて、「日本に興味がある英語をしゃべれる人、でも日本語が上手くない人」を採用できるようになりました。
日本のマーケットは、日本語のレベルが一番高い人たちに突っ込んでいって、いい人の取り合いをするじゃないですか。それが劇的に変わりました。でもそれが行きすぎると、フェイスブックやGoogleと闘うことになるんですよね。ただ、そういうグローバルで闘うメンタリティを持った人が普通に入ってくるようになるので、働き方や考え方も変わってきます。
井上
安武
大変さとアドバンテージのトレードオフだと思いますが、アドバンテージのほうが圧倒的に大きいんですよね。英語化した環境で、なおかつ世界中で働いていると、いまドイツで自然言語の優秀なチームが浮いているから丸ごと買わないか、という話が流れてきます。日本だけでやっていたら、そうはならないですね。それは競争力の妨げになります。
井上
安武
国によって、それぞれです。
井上
安武
Googleも昔は統一を試みていたはずですが、いまは地域水準に合わせ適切なペイが支払われていると聞いています。楽天はすごくいいとまでは言えませんが、それなりの水準は確保するようにしています。
井上
安武
そうなります。だから、その分だけ払います。
井上
安武
上げます。だから良かったんですよ。会社目線で言うとコストが高くなるのでどうか、という面もありますが、トータルで見たときにアドバンテージが大きいので。
井上
安武
英語で仕事をすること自体にストレスを感じる人とか、ここでは自分のパフォーマンスを正当に評価されないと思う人は、日本語の場所に移ってしまいます。
井上
安武
TOEICの点数が一定基準に達していないと、10%ほど給料が下がるので、そこで生き残ることがこの会社の最低要件、と言うメッセージは強く出しています。
井上
安武
10%ダウンのみならず上がる見込みはゼロですし、かつそうした環境でみんなが楽しく働くようになると、居心地も悪くなりますよね。
井上
安武
英語です。
井上
安武
全部英語です。ここ数年、資料を日本語でつくったことはないですね。英語の方が楽になります。資料だけは絶対に転送されるので、日本語はあり得ないですね。日本人同士であっても、です。
井上
安武
でもそれはやはり、全体の中でそんなにパーセンテージは高くないんですよね。たとえばフェイスブックが日本市場をこれだけ席巻していて、じゃあ、日本人のエンジニア何人いるんですか、ということと同じですね。
井上
安武
もう劇的に早く帰るようになりますね、みんな。フランス人とかは早く帰りますし。そのかわり、6時くらいにいったんオフィスを出て家族とご飯食べて、そこからまた仕事をするというスタイルが増えましたね。
さらに技術者のバケーションも変わりますね。みんな母国が遠いので、お盆の3日間では帰れないわけです。すると長期休暇を取らざるを得ず、ローテーションで取るようになりました。
井上
安武
いまだに日本企業であることは、間違いないとは思います。マネジメントのトップも日本人ですし、東京のオフィスが非常に強いので、そこはいかんともしがたいのですが。普通の日本企業から比べると、日本であることはあまり気にしない会社です。
井上
安武
定着率自体も、あまり気にならないんですよね。それがグローバルなルールに巻き込まれること、というか、みんな転職前提じゃないですか。勢いがあるところに乗り換えていって、そこにいる機会に最大のパフォーマンスを出すようになります。ずっといるという感覚が、そもそもおかしいんですよね。
最近、インドからたくさん採用しているのですが、インドの新卒って最初の会社で3年間いると、友だちから「お前は向上心がないのか」と馬鹿にされるんです。この会社が好きで、みんなと楽しく幸せに働いていても、友だちの手前、転職しておこうかなと言う人がいっぱいいます。
井上
安武
国は気にしないですね。家庭のことも心配なんで、間を取ってシンガポールに就職するケースもあるようです。インドまで戻ると給料が下がりすぎてしまい、何かあったときはダイレクトフライトですぐ帰れる。シンガポールはそうした面で人気です。
井上
安武
高いと思います。アメリカにもだいぶキャッチアップしたと思いますけど。
井上
安武
それも去年からでしょうか、一括採用を辞めたんです。意味がないんです、たしかに。2014年度に入った新卒は、開発部隊に100人いたんでが、そのうちの日本人は15人ほどです。
そうすると、日本企業の一括採用とかは意味がないんですね。そうなってくると、新卒でも海外のスタンダードと同じで、あなたはどんな技術を持っていて、どこでインターンをしてきて、どういう経験があって何ができる、じゃあ給与はいくらね、という話になります。それにすでに切り替わってます。
井上
安武
特殊だと思いますね。どちらかと言えば、まだ日本企業なんですけど、かなり欧米型に寄っています。ただ営業とかマーケティング部隊は、一括で採用しています。そっちは日本語スキルも重要なので。技術部隊は違います。
井上
安武
私が辞めたとき、日本でおよそ1600人。海外全部たし合わせると、2200人〜2300人くらいでしょうか。
井上
安武
日本の中では、およそ3,4割。古い歴史があるので。ただ英語化以降、新入社員の8割くらいは外国人です。
井上
安武
特に開発のエリアは違いますね。
井上
安武
違う会社になっちゃいましたね。いろんなことが気にならなくなりますね。ムスリムにも礼拝所をつくったり。礼拝の時間と社長のミーティングが重なったんですが、「どちらを優先させればいいですか」とか聞かれたり。
井上
安武
それはもう「礼拝を優先させてください」と。あと食堂のベジタリアン対応も行っています。
井上
安武
ああ、もう、いろいろ変わりました。
井上
安武
振り返ると私は、楽天のおかげで想像もしなかった世界を見せてもらえました。その経験の中で気づけたのは、「選択肢が多いことと自由は、密接な関わりがある」ということです。人間って大企業の中でもよく愚痴っていたりして、そうした状況はかなり不健康じゃないですか。どこの国にも行けて、そこに友だちがいて、思いついたときに新しい仕事が一緒に出来るというのは、けっこう幸せです。そうした選択肢の多さが、幸せにつながります。
いま友だちがイスラエルの人を紹介してくれて、その人のいる会社のプロダクトを日本に持ってくる相談にのっています。プライベートファンドも日本で紹介してもらったり、そういう輪が広がっていくスタイルは正解がありません。やろうと思えば世界のどこでもできてしまう、それが楽しいですよね。
井上
安武
完全に三木谷さんからもらったギフトです。私は英語が喋れなかったので。39歳からここ5年くらいですね。
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