ヤフー株式会社 代表取締役社長

宮坂 学

MANABU MIYASAKA

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人類の“主食”を、スマートフォンで継承する。

井上(ユニバーサルナレッジ)
井上

停滞の原因はこれだからこうしよう、というようなプロセスは思い描けたのでしょうか?社長になって、最初に変えようとしたことは何ですか?

宮坂様
宮坂

事業的にはスマートフォンが伸びているわけですから、その波に乗っかってしまえば、うまくサーフィンできなくても遠くには行けると考えました。波に乗ることは、すごく大事じゃないですか。

井上(ユニバーサルナレッジ)
井上

たしかに大事ですね。

宮坂様
宮坂

波にさえ乗ってしまえば、サーフィンのスキルが多少下手でも遠くには行けますよね。ところが波がないと全然動かない。そういう意味でスマートフォンだよね、と当時は思っていました。経営手法そのものは、すごくシンプルですね。

井上(ユニバーサルナレッジ)
井上

もう少し詳しく教えてください。

宮坂様
宮坂

新サービスにはこだわらず、今あるサービスを活かそうと考えました。たとえばニュース、検索、天気予報などは、パソコン以前の紙の時代からあったわけです。その紙からパソコンへと移行ができたように、スマートフォンになったから天気予報を見ないとは思えません。今度は移行先がスマートフォンになるだけ、という発想ですね。人類が普遍的に必要とする、いわば主食のようなものを大切に扱い、スマートフォンで継承していく。そこにプラスアルファとして、スマートフォンならではの何かをやれればいいなと思っていました。

でも結局、新サービスにしろ事業にしろ、生み出すのは人、つまり社員じゃないですか。だから今日もがんばってやろうとか、楽しくやろうとか、そうした風土を作らない限りは何も起きない。中でもインターネットの世界は顕著だと思います。可視化して指標を持つのは難しいものの、元気に張り切って前向きにやっていく雰囲気にするというのは、すごく大事なこと。就任時からそうした思いは一貫しています。

井上(ユニバーサルナレッジ)
井上

以前、私がまだヤフーにいた頃に、事業部長が集まって“ヤフーはそもそも何の事業をやるか”、議論をしたことがありました。ポータルサイトのサービスが多数あっても、ユーザー数や売上げ、あるいは利益の観点でチェックすると、ほとんどトップ10くらいに集約されますよね。

宮坂様
宮坂

たしかにそうでしたね。

井上(ユニバーサルナレッジ)
井上

ではトップ10から漏れたサービスはその後も続けるのかどうか、という経営判断が嫌でも出てくると思います。そうした俯瞰的に見たポータル戦略というのは、就任当時、何か手を付けようと考えましたか?

宮坂様
宮坂

選択と集中の議論はやりました。たしか当時で16年目でしょうか、サービスが多すぎるのでは、と議題には上がりました。そもそも物事は始めるのは簡単だと思うんですね。新事業は誰にとってもやりがいのあることですから。一方で撤退ラッパ吹くほうが嫌ですよね、関わっている人が傷つくので。

井上(ユニバーサルナレッジ)
井上

すごく共感できます。

宮坂様
宮坂

みんなでやろうぜ!と盛り上がるのは誰も傷つかない一方で、撤退ラッパを吹くのは感情的にも難しい。そこで少しでもメカニカルに撤退できるように、仕組みを作りました。具体的には、サービスをいくつかの指標でクラス分けして、Jリーグ方式でJ1J2J3のように分けていき、機械化しました。もちろん個々にチューニングは必要ですし、すべてがそれで済むわけではないですが、基本は撤退基準を明らかにして止めやすい環境は整えました。

何かが死ぬことによって、新しい何かが生まれるもの。自分のキャリアを振り返ってみても、もし前の会社で仕事がそこそこ上手く行ってたら、そこにいたわけですよ。いちばん良くないのは、そうした“リビングデッド”のような状態だと思います。大赤字より、そこそこ黒字のほうが、実はタチが悪い。黒字なら社長は業績を主張できますが、そこに携わる社員のキャリアは向上しません。働く人にとっては、不幸を生み出す可能性が大きいとも言えるのです。だから撤退ラッパを吹く線引きの基準を、よく議論していましたね。

井上(ユニバーサルナレッジ)
井上

それでは、指標が下位のサービスは実際に止めたんですか?

宮坂様
宮坂

はい、けっこう止めました。ガラケーのサービスは、ほぼ全部、撤退したと言っていいでしょう。「本当に止めるんですか?」、という声が上がったくらい、当時としては思い切りました。

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