ヤフー株式会社 代表取締役社長
宮坂 学様
MANABU MIYASAKA
パーソナルと会社、ふたつのビジョンの合致をめざす。
井上
大きな会社にいると、普段の業務を進めているだけで会社が回ってしまうじゃないですか。フレーズをあえて掲げることにより、新しいものが生まれるような効果はありましたか?
宮坂
個別ではいくつもあると思います。それより別の視点で強調したいのが、会社としての理想像の実現があります。社員が「パーソナルビジョン」を持っていて、「会社のビジョン」とコネクトされている状態を作り出す。そうした手がかりとしてのフレーズですね。
井上
なるほど。
宮坂
経営側が従業員を使いやすくするために、社員に個別のビジョンを持たせず、空っぽにしておく。そしてその空白を指示で埋めてしまうというのは、手法としてあるとは思います。でも私は、それは嫌だと思っています。
井上
洗脳とも言えますね。新卒採用に見られるように。
宮坂
そう言えるかもしれません。私としては、自分も含めて社員一人一人が「パーソナルビジョン」を持ち、それと「会社のビジョン」が全部一致しなくても、8割くらいは重なる状態にして行きたい。自分にとってやりたいことをやるとヤフーにとっても良いことであり、お互いに良い関係だね、と言えるような会社。それがこれからやってみたいことですね。
井上
そこで聞きたかったのですけど、パーソナルビジョンは宮坂さんも強く持っていますよね。私もヤフーにいた当時、しっかり持っていました。でも社長になると、そうも言っていられなくなる。判断が多岐に渡るため、パーソナルだとこっちをやりたいのだけど、会社としてはそうじゃないだろう、みたいな・・・。そういう難しい決断を下す場面って、これまでなかったのでしょうか?
宮坂
合理的にできる意志決定と、合理的ではできない意志決定があると思います。この事業をやるかどうか、投資するか、人を増やすか減らすかなどは、サービスの撤退も含めて合理的な議論に入ります。ただ、仮説を立てて数字のみで意志決定をするというのは、安易ではないでしょうか。むしろ難しいのは、合理的にできない意志決定ですね。
井上
まさに、同感です。
宮坂
たとえば人事、業績の似通った二人のうち、どちらを昇進させようかという場合。数字だけでは判断できません。
井上
事業の投資判断で言えば、私は検索にこだわっているから、ずっと継続したいと思います。そんな私が社長になったら、検索から撤退する判断は、たぶんできないと思うんです。そういう悩ましい事例に、宮坂さんは直面したことがありますか。私の知る限りでは、宮坂さんはメディアやファイナンス、あるいはスポーツなどに親近感を持っていたはず。そのキャリアがかえって社長としての意志決定を妨げるケースは、ないのでしょうか?
宮坂
たしかに距離の近い事業と遠い事業はあります。キャリアとして全部は経験できないですから。実際、私はメディア系が長い反面、eコマースは2年の経験しかありません。また、実用的な広告の分野は未体験ですし、管理系も同様です。会社というものは実にたくさんの部署で構成されているので全ての詳細まではわからないですし、距離感の違いはどうしても発生します。だからそこはあえて気にかけるようにしています。自分の近い事業や部署に引っ張られることなく、客観的な視点を意識しつつ、同心円の距離で接するように心がけています。
井上
責任者に全て任せるというスタイルは、どう思われますか?いったんは任せておいて、経営レベルでは宮坂さんが決めるような仕組みです。
宮坂
今は「みんなと話し合いながら良い結論を出していこう」という、いわば集合知を集めた経営を目指しています。前社長の井上さんを見ていると、真の天才だと思いますし、孫さんもまた同じ。お二人のような経営スタイルで行けと言われても無理なので、自分なりのスタイルを模索しています。
井上
そこはまだ柔らかい状態ですか・・・?
宮坂
一部門の責任者だったらマイクロマネジメントでやれる見込みは立ちますが、ある程度のキャパを超えると、発想の転換が必要になります。そのためにいま、チームの力を上手く使って運営するスタイルを構築中です。
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