ヤフー株式会社 代表取締役社長

宮坂 学

MANABU MIYASAKA

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なぜ会社に来るのか、それは人と喋るためだ。

井上(ユニバーサルナレッジ)
井上

お金や場所、時間などに縛られずに、やりたいことをやって、それで回りが喜んでくれたらいい。そう考えると、通勤でみんなが同じ時間に通わないといけないとか、古い価値観は障壁になるだけですね。ヤフーでは、そうした根本から変えていく方向だと聞いていますが。

宮坂様
宮坂

連絡がつけば会社に来ないで、自分の好きなところで仕事ができる「どこでもオフィス」という制度があります。いまは実験的に月5回まで利用できます。業務効率の向上や日常から離れた環境で良いアイディアの創出につながるのであれば、仕事は家でも会社でも、どこでやってもかまわない。部門によっては毎日利用できるという試みもありました。いま実験と検証を繰り返しているところで、うまくいくかどうかの結論は、まだ先になりそうです。

井上(ユニバーサルナレッジ)
井上

完全にリモートワークにするという発想はないのですか?

宮坂様
宮坂

いまはまだ、そこまでは行っていないですね。

井上(ユニバーサルナレッジ)
井上

他国に住んでる人を雇うとか、そういうことはいかがでしょう?

宮坂様
宮坂

それはあり得るかもしれないですが、それよりも今はオフィスの再定義の方に意識が向いています。紀尾井町に移転する際、オフィスの設計は若手に任せたんですね。私たちの頃は、オフィスは椅子とデスクさえあれば良かったので、いまだにそうした発想から抜けきれません。でも今の時代、オフィスは快適な生産の場でなくてはならず、そこで長く過ごす人の心地よさを優先して欲しいと伝えました。

ただ、オフィスに来る意味はそもそも何か、そこはしっかり押さえるように指示は出しています。今はスカイプやハングアウトで手軽にミーティングができます。なのになぜ、わざわざ通勤電車に乗って会社に来るのか。私は「しゃべりに行くため」であると、結論づけました。人間関係は対面の会話の中から生まれ、会議からは生まれません。だから「しゃべりやすい会社にしてくれ」とだけ、念押ししたわけです。

井上(ユニバーサルナレッジ)
井上

会社勤めの時代を振り返ってみると、私もそう思います。

宮坂様
宮坂

会議はリモートでもできますが、会話は同じ空間でお茶飲んだりランチを食べたり、あるいはゲラゲラ笑ったりしないとできません。会社は会話しに行くところだと定義して、最初は全フロアをカフェにしようかと思ったくらいです。つまり4000人が入るカフェですね。でも見積もりがすごい金額になったので、諦めましたが(苦笑)

井上(ユニバーサルナレッジ)
井上

たしかに電話会議やテレビ会議を重ねるよりも、実際に行ったら一発で通じることはよくあります。

宮坂様
宮坂

将来は新しいジェネレーションが違うスタイルを生み出すかもしれません。会話を通じて信頼関係さえ作っておけば、会議はオンラインでもできます、という世代が出てきていると感じています。

井上(ユニバーサルナレッジ)
井上

ユニバーサルナレッジは、完全なリモートワーク制です。だからリモートワークとはあえて呼ばず、オフィスワークが週に一度ある会社と、考え方を逆転させています。週に一度は何となく会社に来て、時にはただ座っているだけ。でもそうすると会話するので、業務にも良い影響が出るんですね。

宮坂様
宮坂

なんだかんだ言ってもオフィスの役割は残ると思うのですが、会議する場所から会話する場所へと、徐々に変わって行くと思っています。

少しでも、“ちゃんとした人”になりたい。

井上(ユニバーサルナレッジ)
井上

ところで、宮坂さん自身が人生で大切している事って、いったい何でしょうか?

宮坂様
宮坂

いきなり大上段の質問ですね。うーん、何だろうな・・・いろんな意味で“ちゃんとした人”になりたいですね。

井上(ユニバーサルナレッジ)
井上

十分ちゃんとしてるじゃないですか。

宮坂様
宮坂

いやいやいや、そんなことありません。ちょっとずつでもいいから、人に親切にするとか、あまり怒らないとか、きちんと挨拶するとか、ベーシックなことを大切にしたい。意外とできていないものですよね、そうしたことは。わかってるはずなのに、普段は忘れてしまう。そんなケースはけっこう多いと思っています。

井上(ユニバーサルナレッジ)
井上

それは社長になってもならなくても、そこを大事にしてきたいということですか?

宮坂様
宮坂

そう思います。たとえば家で子供に絵本を読むじゃないですか。その絵本には、だいたい“ちゃんとした人”が出てくるわけですよね。ビジネススキルやキャリアを積んだ人じゃなく、勤勉とか親切とか正直とか、普遍の価値を持った人です。こういう人になれよと子供に言う一方で、私は会社で同じことができているのだろうか?とつい思ってしまうんです。

成果を出せばインセンティブあげて、そうでない人はあげない。会社はそうした仕組みで動きます。でもそれって実は、家で自分が言ってることと、やってることが違う気がする。自分は人を厳しく評価する一方で、次の世代の人たちには、「困ってる人がいたら助けてやれよ」と言っているようなもの。子供への願いと会社でのふるまいを、どうしたら一致させられるのか。「少しでもちゃんとした人になりたい」という思いは、これからしばらくの間、私自身のテーマとなりそうです。

井上(ユニバーサルナレッジ)
井上

今日は面白いお話、ありがとうございました。

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