株式会社サイバーエージェント 取締役 人事統括
曽山 哲人様
TETSUHITO SOYAMA
人事コミュニティを立ち上げる。普遍のテーマは“強みを活かす”。
井上
最後になりますが、曽山さんの個人的なプロジェクト、“強みを活かす”について聞かせてください。
曽山
本を書いた話ですよね。きっかけは、PHP研究所からの取材依頼でした。同社は松下幸之助さんが作った出版社ですが、サイバーエージェントの人事制度と松下さんの思想が似ていると言われたんです。
井上
PHPの人が、何かに気づいていたと。
曽山
そうなんです。それでディスカッションをさせてもらったら、たしかに共通点がいくつもありました。人に任せる、人を見抜く、大きな仕事をどんどん与えろ、など。幸之助イズムがたくさん入っていると。私としてはもう、とても嬉しかったです。
井上
実際に松下幸之助さんをベンチマークされていたんですか?
曽山
日本的経営の本をたくさん読んでいるので、影響は受けてました。グローバルカンパニーのストーリーも参考にはなりますが、我々は日本人だから、日本人の武器をちゃんと意識した方がいい。たとえばチームプレイとか、信頼関係の構築とか。これはすべての役員に共通する思いです。
井上
それでは本の内容も、日本的経営について触れている?
曽山
当初はディスカッションをもとに、 “適材適所”を執筆テーマにする予定でした。適材適所は幸之助さんの言葉なんですが、人事向けにそれを深掘りしていこうというわけです。ただ、そもそも適材適所を実現するためには、人の強みを見つけ、それを活かせるところに配置する必要があります。振り返ってみると、日本社会はその“強みを活かす”ことが苦手です。それならテーマをそちらに持って行き、現場や上司、さらには経営者向けに強みを活かす重要性を説いたほうが良いのでは、という話になりました。
井上
強みを活かしさえすれば、適材適所は自然に実現していく、ということですね。
曽山
ちょうど働き方改革に国を挙げて取り組むというタイミングでもあり、強みを活かせば課題の多くが解決するはず、という発想です。時短の問題にしても、強みが活きる仕事なら、当然効率もアップしますから。
井上
あえてクラウドファウンディングにした理由は何ですか?普通に出版しなかったのは?
曽山
目的は本の出版ではなく、強みを活かす社会の実現です。なので、広く趣旨を世に伝えて、少しでも多くの支援者を募ろうと考えました。サイバーエージェントにはクラウドファンディングの系列会社もあるので、そこを利用したわけです。
井上
成果はどうでした?
曽山
初版が10500部、通常の出版なら5000部と聞きましたので、成功したのではないでしょうか。クラウドファンディングだけで事前予約が1000冊も入りました。
井上
これは曽山さん個人のプロジェクトなんですか?それとも会社の業務の一環ですか?
曽山
サイバーエージェントの曽山でもあるし、著者は曽山個人でもあるし。半分半分といったところでしょうか。世の中だけでなく、会社内にも広めていきたいと考えています。
井上
曽山さん個人の夢と、会社の目指す方向性が一致しているように思えます。
曽山
つながってますね。楽しいと感じています。
井上
それはいいですよね。ところで、本はいつ出るのでしたっけ?
曽山
7月19日に出ました。21日にはイベントも行いました。今後は育成プログラムの作成など、より実践的なフェーズに移す予定です。「本が出ました、ありがとう!」という打ち上げ花火は、もう落ち着いたと言える状況ですね。
この“強みを活かす”というテーマで、人事コミュニティを立ち上げる予定です。誰もが自分の強みをよく理解しておらず、まして他人の強みなど見つけられるのか、不安でいっぱいです。特に人事はそうした傾向が強いため、力になりたいと思っています。また経営者の参加希望者も多く、社員一人一人が強みを活かすようになったら、すごい会社ができるのではないでしょうか。
井上
強みを活かすサロン、とも言えそうですね。
曽山
私は“ラーニング・コミュニティ”と名付けるつもりです。名前はもう決まっていて、“HLC”=ヒューマン・リソース・ラーニング・コミュニティ9月から本格稼働させていきます。
たとえば採用がテーマなら新卒か中途かに絞り込んで、サイバーエージェントの会議室に集まってピザでも食べながら。そうしたゆるい集まりを考えています。人事の方はけっこう孤独で悩んでいたりするんですよ。経営者からは課題を任せられ、現場からは突き上げられて。我々だって同じ課題で悩んでいるわけですから、お互いに答えを持っていないとしても、『ああ、こういうやり方があるかもね』とディスカッションして気づければいい。そうした実りある場にしたいと思っています。
井上
サイバーエージェントのノウハウを喋っちゃっても大丈夫なんですか?
曽山
大丈夫です。普段から基本、全部公開しています。
井上
特に秘密は無いと・・・?
曽山
言葉を選ばずに言うと、公開しても真似できないんです。ビジネスモデルや企業文化が各社で違うので、サイバーエージェントの制度をあてはめても上手く行かない。運用する人も制度を受け取る社員も、会社ごとに個性があるじゃないですか。働く人たちに合わせて、それこそ制度のネーミングから運用の仕組みまで変えないとフィットしません。だから全部伝えてもそのまま取り入れるのは無理ですし、逆に我々がヤフーやGEを真似しようとしてもできません。
井上
たしかに、インスパアされるだけかもしれませんね。
曽山
はい、だから全部オープンにしてしまおうと思っています。
井上
ちなみに、そこでの売上は、どこに計上されるのですか?
曽山
実はいま、私は子会社を一つ担当しているんです。CyCAST(サイキャスト)という、動画を配信したり、生放送の番組を制作する会社です。ここもまだスタートアップなので、人事の勉強会コミュニティを動画で配信し、そこに売上をつけていくように考えています。
井上
毎回、どんなコンテンツにするかは曽山さんが決めていくわけですか?
曽山
はい、基本的にはそのつもりです。たとえば採用をテーマとしたら、サイバーエージェントの事例を紹介したり。時には採用関連の本を出してる著者を呼んで、対談する番組があっても良いと思います。いずれにしても、会費以上の価値は出せると思っています。
井上
これからのHLCが楽しみです。今日は素晴らしいお話、ありがとうございました。
人事向けコミュニティ「HLC」について
https://hlc-official.themedia.jp/
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