株式会社バルーン 取締役CXO
本橋 徹様
TETSU MOTOHASHI
さまざまなストーリーで、食材通販をもっと自由に。
井上
すでにトリドールは膨大な数の店舗展開をしているじゃないですか。そこで扱っている品をこちらで売って顧客情報を集めることは、考えないんですか?
本橋
それも考えました。ただ、それは時期や目的を見ての判断だと思っています。まずは、自社サービスの食材や売り方の世界観や価格帯を定義してからだと考えています。
井上
そうすると狙っている客単価は、どのくらいのラインになりますか?
本橋
やはり4,000円から5,000円になって来ますね。
コーヒーで言うと、チェーン店なら250円で飲める一方で、ホテルのラウンジに行ったら雰囲気込みで900円とかになります。同じコーヒーでも軸足をどこに置くかで、全然違ってくるわけです。こうしたリアル店舗で普通に起きている現象をEコマースにあてはめると、5,000円の肉って高いんだけど、その分ぐっとくるストーリーがあれば購入されるのではないかと。そう考えています。
井上
たとえばジャンルが違っていてもいいのですが、ベンチマークしている会社はありますか?
本橋
当初は成城石井や無印良品を考えたのですが、いまはちょっと違ってきています。ビジネスモデルとしては、ニュースピックスとか、あとメルカリもそうですね。「もっと自由な経済紙を」とニュースピックスは謳ってますし、メルカリも「もっと自由に〜」と主張しています。その流れで言えば、我々は「もっと自由な食材通販」みたいな感じ。一個の食材に対して様々なストーリーをいろんな人が語ることによって、「自分はこれが、私はこれを」という選択がおこるイメージです。
そうした世界を実現していくためには、ステマっぽく見えない、あるいは健康食品のランディングページ(LP)にならないようにする工夫が必要です。たとえばハイセンスな写真とかですね。
井上
人が集まるメディアとなって、そこからお財布の紐をゆるめていく手法とは違うのでしょうか?
本橋
メディアコマースという観点はありますね。実はいま実験していることがあって、二人ずつペアを組んで扱っている商材のストーリーを書いています。そしてどのペアが書いたものが売上やPVにつながったか、コンテストで競おうというわけです。
この前、経過をシェアしたとき、いろんな切り口があって面白かったんです。スイーツなら自分に合うものをゲームで選べるようにプログラムを組んでみたりとか。単独の読み物としても面白くて、その結果、購買ボタンを押していただける。そんなチャレンジを試みています。
井上
最後は購買に結びつかないとなりませんよね。メディアを作るのが目的じゃなくて。
本橋
そうですね。集客のためにメディア化するという発想でしょうか。
井上
海外に先行事例はあるのでしょうか。
本橋
“ブルーエプロン”や“ハローフレッシュ”など、ちょっとお洒落な食材通販サイトはあります。ブルックリンに住んでる若いカップルが、ブルーエプロンを使って食材キットを取り寄せ、週末を楽しむようなスタイルはすでにあります。でもどちらかと言えば単なる食材の通販であり、ストーリーとは違います。
井上
シェフが来て料理をしてくれるサービスもあるじゃないですか。それとの棲み分けは考えていますか?
本橋
それも多くのストーリーのワンノブゼムですね。いま議論していることがあって、ここにストーリーが4つあるとします。それぞれ「栄養素が高い」「生産者がイケメン」「最強にインスタ映えする」、そして「シェフが作ってくれました」とある中で、ひとつのコンバージョンレートが10%であったとき、それだけを残せばいいのかどうか。他の8%、6%、4%を切り捨ててしまった場合、残った一つのレートをひたすら上げる話になり、アマゾンの理論に近くなります。それよりも、複数のストーリーによって純増していくと考えたいですね。
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